相続財産の名義変更の必要性
遺産分割協議が成立して、相続人各自の承継するものが定まっても、それだけでは相続人各自が完全に承継するものを引き継ぐということにはなりません。
遺産分割協議の内容に従って相続財産の名義を変更していく手続きが必要になります。
相続財産の名義変更には、期限はありませんが、それを長い間しないでおくと、次の相続が起きてしまったような場合は、手続きが複雑になり、トラブルが起きやすくなります。
相続したものが不動産の場合には、その不動産を売却したり、また金融機関からその不動産を担保に融資を受ける場合にはその前提として、相続登記をすませておかなければなりません。
遺産分割協議が終わったら、早めに相続財産の名義変更をするようにしましょう。
手続きの流れ
遺産分割協議の終了→必要書類の収集→登記申請書の作成→法務局に登記申請という流れで進みます。
必要書類の収集
相続登記に必要な書類は、相続登記の種類によって異なります。
相続登記には、@法定相続分によるの相続登記・A遺言による相続登記・B遺産分割による相続登記の3種類があります。
イ 法定相続分によるの相続登記に必要な書類
被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
被相続人の住民票除票(本籍地入り)または戸籍の附票
相続人全員の戸籍謄本
相続財産を取得する相続人の住民票
相続する不動産の固定資産税評価証明書
以上の書類は、市区町村役場で取得できます。東京23区の不動産の固定資産税評価証明書は都税事務所でとれます。(東京23区内のいずれの都税事務所でもとれます)。
ロ 遺産分割協議による相続登記に必要な書類
被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
被相続人の住民票除票(本籍地入り)または戸籍の附票
相続人全員の戸籍謄本
相続財産を取得する相続人の住民票
相続する不動産の固定資産税評価証明書
相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書(相続人全員が署名して、実印を押す必要があります。この場合に添付する印鑑証明書には、有効期限の制限はありません)
ハ 遺言による相続登記に必要な書類
遺言書(公正証書遺言の場合は、遺言書としてそれのみを添付すればよいですが、それ以外の自筆証書遺言等の場合は、家庭裁判所で、検認の手続きをとる必要があります。
また、相続登記をするためには、原則として、遺言書に「誰々に相続させる」と記載されていることが必要です。「誰々に遺贈する、贈与する」となっていれば遺贈の登記をすることになりますので、注意が必要です)
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本または除籍謄本
被相続人の住民票除票(本籍地入り)または戸籍の附票
相続財産を取得する相続人の戸籍謄本
相続財産を取得する相続人の住民票
相続する不動産の固定資産税評価証明書
預貯金の名義変更手続き
金融機関は、被相続人の死亡を確認すると、預貯金の口座を凍結します。これは、一部の相続人が預貯金を勝手に引き出すのを防ぐためです。
凍結された預貯金の名義を相続人に変更して、預貯金の払い戻しを受けるためには、次のような手続きが必要です。
遺産分割の前の場合
以下の書類を金融機関に提出して名義変更をします。
@ 銀行指定の名義変更届出書
A 被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
B 相続人全員の戸籍謄本
C 相続人全員の印鑑証明書
D 預金口座の預金通帳と届出印
遺産分割の後の場合
上記の書類の他に遺産分割協議書(相続人全員が署名して、実印を押す必要があります)を金融機関に提出して名義変更をします。
調停や審判に基づく場合
以下の書類を金融機関に提出して名義変更をします。
@ 家庭裁判所発行の調停調書謄本または審判書謄本
A 調停または審判により預金を相続した相続人の戸籍謄本
B 調停または審判により預金を相続した相続人の印鑑証明書
C 預金口座の預金通帳と届出印
遺言書に基づく場合
以下の書類を金融機関に提出して名義変更をします。
@ 遺言書
A 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本または除籍謄本
B 遺言によって預金を相続した相続人の印鑑証明書
C 預金口座の預金通帳と届出印
必要書類は、金融機関により異なりますので、金融機関にあらかじめ問い合わせて確認しておく必要があります。
株式の名義変更手続き
株式の名義変更手続きは、被相続人の株式が上場株式か非上場株式かによって異なります。
上場株式の場合
被相続人が証券口座を開設していた証券会社に対して取引口座の変更手続きをした後に、株式を発行した株式会社に株主名簿の名義変更手続きをすることになりますが、この後者の手続きに関しては証券会社が代行してくれます。
証券会社における手続き
相続人は、下記の書類を証券会社に提出して、取引口座の名義変更手続きをします。
イ 相続による株券名義書換依頼書(証券会社所定の要式)
ロ 被相続人の出生から死亡までの除籍謄本・改製原戸籍・戸籍謄本)
ハ 相続人全員の戸籍謄本
ニ 相続人全員の印鑑証明書
ホ 遺産分割協議書(遺産分割による相続の場合のみ)
非上場株式の場合
この場合は、証券会社は関係ありませんので、当該非上場会社に対して、相続人全員が合意した上、株主名簿の書き換えを行うという事になります。
生命保険金の請求
生命保険金は、被保険者(被相続人)が亡くなることにより、保険金受取人が具体的な保険金請求権を取得するものです。誰が保険金受取人かは、保険契約により定まるものなので、誰が保険金受取人かで場合を分けて考える必要があります。
イ 特定人が受取人と指定されている場合
この場合は、受取人と指定されてい者が「受取人」としての資格に基づいて固有の権利として受領しますので、相続財産とはならず、従って、遺産分割の対象ともなりません。
ロ 特定人ではなく、単に「相続人」 と指定されている場合
この場合、相続人が平等の割合で取得するのか、あるいは法定相続分で取得するのか問題となりますが、「相続人」 と指定された者が自らの固有の権利として保険金を受領し、生命保険金は相続財産とはならず、従って、遺産分割の対象ともなりません。
ハ 被相続人である保険契約者が受取人である場合
この場合は、相続人が受取人としての被相続人の地位を相続により承継しますので、相続財産として、各相続人が法定相続分に従って、保険金を受領します。
ニ 特別受益に当たるか
生命保険金が著しく高額の場合、保険金を受け取った相続人があまりに有利となった場合、相続人間で不公平になります。そこで判例(最高裁平成16年10月29日)は、このような場合原則としては特別受益に当たらないが、諸般の事情を考慮して、相続人間の不公平が極めて著しい場合は、特別受益になると判示しました。
ホ 相続放棄をした場合
イやロの場合のように、保険金の受取人が自ら固有の権利として保険金を受け取った場合は、相続によって保険金を受け取ったのではないので、相続放棄をした場合でも、保険金を受け取ることができます。また、保険金を受け取ったからといって、単純承認とみなされたり、相続放棄ができなくなるようなことはありません。
ヘ 相続税との関係
イやロの場合のように相続財産とならない場合でも、非課税部分はありますが、相続税法上は「見なし財産」として課税されます。
死亡退職金
イ 意義
死亡退職金とは、労働者が死亡した場合に支払われる金銭です。
賃金の後払いとしての性質、遺族の生活保障としての2つの性質が混在していると考えられます。
賃金の後払いとしての性質を強調すれば相続財産性を肯定する方向に、遺族の生活保障としての性質を強調すれば相続人固有の権利と考える方向になります。
ロ 受給権者が会社の退職金規程や法律などで定められている場合
この場合は、死亡退職金は、受給権者の固有の権利と考えられ、受給権者と定められた者が退職金を請求でき、相続財産には含まれません。
従って、遺産分割の対象になりませんし、また相続放棄をしても取得できることになります。
ハ 受給権者が定められていない場合
この場合は、死亡退職金は未払い賃金として被相続人が取得するべき財産であり、相続財産に含まれることになります。
従って、遺産分割の対象になりますし、また相続放棄をした場合は死亡退職金は取得できません。
ニ 特別受益に当たるか
死亡退職金が著しく高額の場合、死亡退職金を受け取った相続人があまりに有利となった場合、相続人間で不公平になります。このような場合、原則としては特別受益に当たらないが、諸般の事情を考慮して、相続人間の不公平が極めて著しい場合は、特別受益になると考えられます。
ヘ 相続税との関係
ロの場合のように相続財産とならない場合でも、相続税法上は死後3年以内に支給が確定した退職金その他これに準ずる給与については、「見なし相続財産」として課税されます。